アルパカコネクト1周年!

わろたらあかんアルパカランド24時1 ~しらんけど~


 取り敢えず、無駄にデカい遊園地アルパカランド。
 その敷地内に設置された特設スタジオで、MCを務める香澄・葵が妙にハイテンションな第一声を放った。
「さぁ始まったよ! わろたらあかんアルパカランド24時……えぇっと、僕も何があかんのかよく分かってないけど、何かやってたら良いんだよね! うん、それじゃあスタート!」
 物凄く大雑把というか、見ようによっては随分と投げ遣りな開会宣言だが、兎に角も【特番】わろたらあかんアルパカランド24時 ~しらんけど~ の収録が始まった。
 MC葵が楽しみですねぇと傍らのゲスト席に話を振る。そのゲスト席(何故かふたつしか無い)には碓氷・麻樹と高町・雪緒の姿が。
 葵に無難な笑顔を返しながら、麻樹は内心では、
(もうちょいネタ仕込んでから振ってぇや)
 と渋い表情。お笑いには少しばかりプライドを抱いているらしい麻樹としては、ここで終わらせてしまうのは矜持に関わる。まずは何でも良いから話を繋がなければ、と麻樹は雪緒に水を向けた。
「高町さんはどの辺、注目してはります?」
「えー、そもそも俺この番組そんな出たかったかっちゅーと、何か方向性ちゃうしなー」
 いきなりあらぬ方向へ話がすっ飛んで行ってしまった。おいマジか、とその場で凍り付く麻樹。
 余りの噛み合わなさに見かねた葵が、苦し紛れの助け舟を出した。
「はーいそれじゃあカメラさん、そっちの状況教えてくれるー?」

 いきなり出足から不穏な空気に包まれつつある特設スタジオ。
(だから最初にきっちりとネタ合わせやっておけと、あれほどいったでしょうに)
 テレビカメラ横でカンペを出していた須藤 メアリは、これは拙いと眉間に皺を寄せていた。
 今回メアリは人脈育成やら小銭稼ぎやらを目的として、この番組の収録に参加していた。その際、自身が経営する『ハッピー・アライアンス』の関係者を呼び集め、チーム【盟約】として一括請負契約を結んだ。ゲスト席で半ば放送事故に近しい噛み合わなさを存分に発揮している麻樹と雪緒も、【盟約】のメンバーである。
 メアリの隣りでタイムキーパーを担当していた【盟約】メンバーの黒谷・そらが、血管が切れそうになっているメアリの横顔をそっと覗き込んだ。
(うわ……こりゃー拙いかも)
 メアリのあからさまな仏頂面に、そらも流石に危機感を覚えた。噛み合わない会話は、時間のロスを生じさせる。それはメアリが最も嫌うところだし、タイムキーパーのそらとしても、結構困った展開になってしまう。
 そらはセット内の三人に巻きの合図を出したが、少なくとも麻樹と雪緒には通じていないらしい。ふたりの会話は依然として、平行線のままだ。
「お楽しみはこれからやで」
「ええと僕、受験生なんで、お母さんと相談します」
 何をどうすればこんな受け答えになるのかよく分からないが、兎に角も麻樹と雪緒が織りなす会話のズレっぷりはほとんど奇跡と呼んでも良いだろう。
 駄目だこりゃ――そらは思わず天を仰いだ。
 その一方でただひとり、葵だけはちゃんと仕事していた。
「あ、もうすぐお迎えのバスが皆さんのところに到着しそうだねー」


 アルパカランドから数キロ離れた、どこかの運動場。
 そこに煌☆騎士、一条 流星、N、クロハ=ヴェローナ、折戸 明日見(睦月・有紗役として参加)、シスル・ノーティラスの六名が漫然と佇んでいる。この六人はどうやら、わろたらあかん挑戦者に選ばれたらしい。
 一応建前上は、休日にも関わらず誰かに呼び出されたので、渋々足を運んできたという体だ。
 カメラがこの六名にフォーカスした後、ややあってからママチャリが駆け込んできた。運転しているのは、ナハティ藤岡(本名ナハティガル=ラー)である。
 ナハティは六名の前でママチャリを止めたが、身長が高い癖にサドルが低い所為か、危うくこけそうになっていた。
「お前ら、よう来たな。これから楽しい楽しいアルパカランドにご招待やで」
 端正な顔立ちで、妙に棒読みの関西弁。ナハティが放つその違和感たるやメガトン級だ。
 次いでナハティは六名に対し、運動場内に設置されている仮設更衣室で着替えろと指示を出した。その中には六名が纏うべき正装が用意されているとの由。
 小首を捻りながらも早速、着替える六名。
 煌☆騎士と流星は、アトラクションを存分に楽しめるようにとカジュアルなTシャツ、スラックススタイル。
 ナハティが例の棒読み口調で褒めると、
「あざーっす」
「ふぅん……これで挑戦、ねぇ」
 と、然程に嬉しそうでもない反応を返した。
 次いで着替え終わったのは明日見。何故かヒョウ柄シャツとショッキングピンクのパンツスタイル。オバチャン風味がハンパ無い。
「え? あの、聞いてたのとちょっと違うんですけど」
 明日見からのクレームは、ナハティによって黙殺された。
 直後にクロハとシスルが同時に姿を見せた。クロハはおかっぱヅラを被り、マッチョマンスタイルの肉襦袢を着込んでいる。そしてシスルは、何故か囚人服だった。
「えぇっと……御免、意図が全然分かんないんだけど」
 クロハは小柄なだけに、肉襦袢でほとんど全身が埋もれてしまいそうになっていた。だが、すぐに発想を切り替える。
(わろたらあかんってことは、わろたらあかん奴を撮影するんだろうね)
 そうか、ボクは挑戦者を装った刺客に違いない――何だか急に、やる気が出てきた。
 一方のシスルは、囚人服姿でくねくねと全身をよじりながら意味ありげな笑顔を返す。
「やだぁ、もう、これってそういう意味ぃ?」
 妙に思わせぶりな台詞で挑発するシスル。本人にしてみれば、これはこれで美味しいと思っているのだから問題無いのだろう。
 そして最後に、満を持して登場したのはN。彼女の衣装はもっと異質だ。禿ヅラ、瓶底眼鏡、おっさん肌着にステテコ。笑いを取れるアドバンテージが揃っている。
「ふっふふふ……このNちゃんを差し置いてバラエティとは、などと思ってましたけど、これでチャラにしてあげますよ」
 燃えている。Nは、燃えている。これぞ芸人の鑑だ。
 Nのプロフェッショナル魂を見た煌☆騎士と流星は、こいつぁ負けてられねぇと気合を入れ直した。笑ってしまえばどうなるのか、などとは一切考えず、チャレンジャーの心に火が点いたといって良い。


 運動場に、アルパカランド直通の送迎バスが猛スピードで突入してきた。危うく六名の挑戦者のみならず、先導役のナハティですら轢き斃そうという勢いだったが、ハンドルを握っていた運転手役のタレント明日・輝夫(愛称アステル)は昇降口の扉を開けながら、
「いやー、悪い悪い。ブレーキとアクセルを踏み間違えちまったよー」
 などとのっけから危険人物っぷりを露呈していた。
「さぁ、歴史に名を残してやろうぜ!」
 ただの運転手役なのに、やたらとテンションが高い輝夫。ナハティと六人の挑戦者をあのまま轢き斃しておけば、きっと違った意味で歴史に名を残していただろう。
 ともあれ、笑うどころか背筋に冷たいものを感じながら、六名の挑戦者達はナハティと共にバスへと乗り込んだ。
 バスは輝夫のアクロバティックなドライビングテクニックで車体を盛大に振り回しつつ、次の停留所へと豪快に走り続けた。途中で一方通行を逆走しそうになったが、気落ちしてても何も始まらないという輝夫理論で何とか切り抜けた。
 そして、最初の停留所。ここで奇妙な四人連れが乗り込んできた。
 暁 蓮、篁 悠、楪 樹、そしてヴェルクヴァルト・江瑠・ダリオの四名から成る、【モナP】班だ。彼らは六名の挑戦者と向き合う形でベンチ式の車内シートに並んで腰かけた。
「なぁ、どうするよ? あの煌☆騎士と一条流星っての、どっかのホストらしいぜ」
「うはー。それじゃあアレだね。今日の特番に出演してるのって、やっぱお店の営業兼ねてんのかな?」
 いきなり蓮と樹が本人達を前にして、堂々と作戦会議を始めた。この【モナP】班に与えられた使命は、六名の挑戦者達にちょっかいを出し、悪戯を仕掛けて笑いトラップに引きずり込むこと、だ。
 しかし普通、標的の前でこんなにも明け透けにネタばらしするだろうか。
「報酬が出るからという話だから一応協力はするが……段取りは貴公らに任せるぞ」
 いかにも渋々といった様子の悠だが、しかし他の誰よりも煌☆騎士と流星の身上書を真面目に読み込んでいる姿を見ると、一番やる気満々なんじゃないかとすら思える。
 ここで蓮と樹はどういう作戦で行こうかと、何故かプロレスラー姿のヴェルクヴァルトに水を向けた。
 上半身裸のヴェルクヴァルトは大胸筋をぴくぴくと小刻みに動かしながら腕を組んだ。マスクの奥では、尤もらしい表情で真剣に考える素振りを見せている。
 その直後、マスクマンの鋭い視線が煌☆騎士と流星へと流れた。煌☆騎士は要領良く目線の衝突を上手く躱したが、流星は駄目だった。ここでもNo.1とNo.2の、ホストの技量差が表れた格好だった。
 ヴェルクヴァルトはずいっと立ち上がり、流星にぬっと顔を寄せると、しゃがれた声で獰猛に吠えだした。
 が、何をいっているのかが良く分からない。当初は外国語を並べ立てているのかと思われたが、ただ単に滑舌が悪いだけだった。
 この時、オバチャンスタイルの明日見が喉の奥でつい、笑い声を漏らしてしまった。ヴェルクヴァルトの瞳がきらりと光る。と思った次の瞬間には、明日見はヴェルクヴァルト式羊殺しに絡め捕られていた。
 明日見は必死にタップするが、ヴェルクヴァルトは例によって滑舌最悪な咆哮を放つばかりだ。この恐ろしい光景を、流星は見て見ぬふりをした。ここで下手に絡めば、何をされるか分かったものではない。
 やがて、ひと汗かいてすっきりしたヴェルクヴァルトは再びシートに腰を下ろし、蓮や悠、樹達と何やらぼそぼそと言葉を交わし始める。六名の挑戦者達には何をいっているのかさっぱり分からないヴェルクヴァルトの滑舌は、蓮、悠、樹の三人には明瞭に聞き取れるらしい。
 ところが【モナP】班は急に意見が割れ始めたらしく、お互いに猛然と罵り合いながらバスを降りていった。
 Nが車窓から覗くと、【モナP】班の面々は数秒で仲直りし、謝罪の応酬を交わしている。
 一体何だったんだと顔を見合わせる煌☆騎士と流星。
 その傍らで明日見は、
「うぅ……こんなの聞いてないんですけど……」
 と、ひとり死にそうな顔で悶絶している。
 そんな彼らを尻目に、バスは再び動き出した。


 次にバスが停まったのは、どこかの世紀末覇者が闊歩していそうな廃墟のど真ん中だった。誰がこんなロケーションを用意するんだと不思議に思う者も少なくなかったが、ここでも矢張り、刺客が現れた。
「その悪事、待った待ったー!」
 良く通る女性の声を先頭に、五つの人影が車内に飛び込んで来る。
 この五名は【綺戦】の面々だった。
 彼らはいずれも朝のヒーロー番組『綺石戦隊ジュエルレンジャー』の、煌びやかなコスチュームに身を包んでいた。
「輝く熱い正義の心! ルビーレッド参上! とうっ!」
 狭い車内で容赦無くバク転とバク宙を連続させるのは、クレア・エクレール。派手なカラースモークを車内に振り撒き、挑戦者達を盛大に咳き込ませていた。
「夢はきらきら無限大! ホワイトオパール参上よ!」
 続けてアンネエルカが物凄い勢いで飛び込んで来る。本来ならふわふわと夢見がちという設定らしいが、今日は随分と気合が入っているようだ。
「漆黒の闇は深淵の使者……オニキスブラック、参上」
 亜流という役者が、クールなたたずまいとは裏腹に派手なアクションでアンネエルカに続いた。このオニキスブラックは、アルフィー・リッパーという青年の役柄が変身するとの由。
「煌めく雷光シトリンゴールド! 僕に恋したまま逝っちまえですよ」
 魔性の美青年、アーシェル・G・クラインは黄金の戦士。扮するは倉井アーシェルというちょっと耽美系の人気俳優だ。
「静かなる青き眼差しサファイアブルー……お嬢さん達を離して貰おうか」
 最後に登場したのは華と知的表現で勝負な参謀型の、青の戦士。こちらはセヴラン・クアルトが扮するが、セヴラン自身はガチのバイオリニストだそうで、アクションは超苦手。怪我は勿論厳禁なので、マネージャーがアクション監督にいつも細々と注文をぶつけているそうだ。
 そんなこんなで一応、戦隊は全員揃った。びしっとポーズを決めたところで、どこからかカァーット、の声が響いた。するとジュエルレンジャー達はやれやれといった表情で、挑戦者達と真向いのベンチ式の車内シートに腰を下ろした。
 芝居に入っている時は素晴らしい程に息がぴったりだったのだが、カットがかかった瞬間に微妙な不協和音が漂っている。
「やっぱりね、初期メンバーにいきなりゴールドが居るのって、どうかと思っちゃうけどなぁ」
 アンネエルカが役柄とは真逆の、妙に堂に入った大御所みたいな態度でアーシェルに不満をぶつけた。クレアも同様に渋い表情を向ける。
「最初の三カ月はレッドが主役なんだし、ゴールドは追加戦士枠で居て欲しいんだよね」
 番組内では絶対に見せてはならない超ドロドロした展開。
 しょんぼりしているアーシェルを、亜流が元気付ける。
「まぁまぁ……ゴールドを初期メンバーにってのはプロデューサーの意向なんだし、今回はこれで行くしかないだろう。セヴラン、あんたもそう思うよな?」
「ん? いや、僕は怪我さえしなければ、何でも良いけど」
 助け舟を求められたセヴランは、実に素っ気無かった。彼の役は弓使いなのだが、当然セヴランに弓術の心得は無い。番組内で彼が放つ矢は全てCGなのだそうだ。
 と、ここでアーシェルが自らに気合を入れる様に轟然と立ち上がった。その拍子に服が裂け、彼のしなやかな腹筋上に描かれていた腹踊りペイントが露出した。
 嗚呼、やっちまったな――誰もが思った。
 これで笑いが取れればまだ良かったのだが、物凄く微妙な空気の中での腹踊りペイントは色んな意味で、全員にとって辛かった。


 バスはいよいよ、アルパカランドの駐車場へと入った。
 ものの30分程の道程だったが、挑戦者達にとっては異様に長い時間のように思えた。六名の挑戦者達がナハティの先導でバスを降りると、チーム【盟約】のマガト・バーゲストと古馬・真が彼らを出迎えた。
「はいはーい。皆さんお疲れー。入り口はこっちだよー」
 誘導担当の腕章を付けたマガトが、まるで旅行ツアーの案内役の様に小さな旗を振って挑戦者達を誘導。仕事をくれたメアリの顔に泥を塗る訳にゆかぬと、今日のマガトは割りと頑張って真面目に仕事していた。
 一方、少し前まで関係者以外立入禁止区域を巡視していた真は、カメラに映り込まぬように細心の注意を払いながら、バスを駐車場外へと誘導してゆく。バスが去ってゆくのを見送り、やれやれひと仕事終えたとばかりに首の凝りをほぐしていた真だったが、妙な人影がマガトや挑戦者達に近づいてゆくのを咄嗟に見て取った。
 どう見ても体格は男性なのだが、しかし膝丈の白いドレスは実に繊細なチョイスで、女性らしさが伺える。
「あの、すみません。関係者の方でしょうか?」
 真はやけに大柄な女性だなと内心で小首を捻りつつ、ややおっかなびっくりの調子で声をかけた。
 振り向いたその人物は似合っているのかどうなのかという厚化粧で振り向いた。胸元には、パヴェル・A・サムルガチェフと記された関係者用の名札が煌めく。
「通っても良いんだよね?」
 テノールがハスキーに響く。全員がぎょっとして視線を集めた。それは好奇というよりも寧ろ恐怖だった。
 その時、惨事が生じた。足元の金網から強い風が噴き上がってきたのだ。あおられるスカート。当然、その下に隠れているものが露わとなる。
「どこ見てんのよぉ」
 わざとらしいウィンク。だが周囲で響くのは断末魔の悲鳴の連鎖。
「このセクシーパヴェルさんのおぱんつを……どわぁ!」
 風が強過ぎたらしい。めくれ上がったスカートが彼の顎先を強打した。
 挑戦者達は恐ろしいものを見たとおののきつつも盛大にずっこけていた。


 入園ゲートの横手で、ちょっとした悶着があった。
 辛うじてパヴェルのパンチラ地獄から生還した煌☆騎士と流星が、話が違うとスタッフに訴えたのである。
「っつぅかさ、これ、わろたらあかん、ってのが主旨の番組なんだよな?」
「あれは笑うどころか命の危険すらあったように思うぞ。本当にちゃんと管理出来ているのか?」
 煌☆騎士と流星からのクレームを受け付けているそのスタッフ――チーム【盟約】の誘導担当、月瀬 都季は困った様子で頭を掻いた。マガトと真が予想外のSAN値チェックを強いられており、都季自身も事の重大性は理解している。
 が、都季はエキストラやモブ寄り出演者の案内だったり誘導だったりをお世話するだけの簡単なお仕事を担当しており、それ以外の業務については特段の権限を持っていない。
 正直なところ、私にいわれてもなぁというのが本音であったが、しかし頼られた以上は何とかしなければ。
 ここは応援を呼ぶべきだと判断し、都季は周囲を見渡した。
 するとその時、近くをナタク・ルシフェラーゼと半田・笹丸が通りがかった。このふたりもチーム【盟約】の仕事仲間で、ナタクは調達担当、笹丸は弁当手配担当としてアルパカランドに入っていた。
「あ、ルシフェラーゼさん、それに半田さんも……ちょっと良い?」
「ん? どうかしたの?」
 ガラガラと音を立てて押していた台車を止めて、ナタクが都季に応じて立ち止まる。
 この直前までナタクは、
「慰労会まで遺漏なく済んで良かった」
 という駄洒落について、笹丸と共にその切れ味と汎用性について議論を重ねていたのだが、元々縁の下の力持ち的な役割で動いていた為、都季の困った様子がすぐに目に付いたのだ。
「あ、ついでだからお弁当はどう? お勧めは、アルパカ容器入りの甘党弁当。食べた後は貯金箱にも出来るんだよ。見た目はカツ丼なのに、食べるとスイーツな面白弁当ってのがミソだね」
 笹丸曰く、アレルギーや好みについても各事務所から情報を仕入れており、各人に合った弁当を選定したとの由。だがその割には、奇妙な弁当を勧めてくるものだ――煌☆騎士と流星は思わず顔を見合わせた。
 さっきのパンチラ地獄も大概だったが、他のスタッフも結構アレな輩が多い様に思えてきたのである。
 それは兎も角、ナタクとしては色々な突発事象にも対応してみせるという自負がある。今回は調達案件ではなかったが、都季が困っているのだから、助けてやりたいと思うのが人情だろう。
「ちょっと見に行ってこようか……笹丸さんも一緒においでよ」
「えぇー、僕もですかぁ?」
 露骨に嫌そうな顔を見せた笹丸だが、力仕事じゃないからとナタクに押し切られ、結局ふたりで見に行くことにした。
 それから十数秒後。
 ナタクと笹丸の、恐怖と絶望を含んだ悲鳴が駐車場内に殷々と響き渡った。
 煌☆騎士と流星は、あの魔物がまだ近辺に潜んでいることを悟り、一瞬で顔色を失った。そして振り向くと――都季が脱兎の如く走り去る姿が。ナタクと笹丸を救う為にも、更なる応援が必要と感じたらしい。
「責任者と応援呼んでくるから、少々お待ちを」
 残された煌☆騎士と流星は顔を見合わせる。
「長居は無用……だな」
「うん。逃げよう」
 奴はまだ、どこかに居る。
 流星に促され、煌☆騎士も咄嗟に踵を返した。


 やっとの思いで(?)挑戦者達はアルパカランド園内へと足を踏み入れた。
 すると、最初のアトラクションに挑む前から、早々と刺客が現れた。
 【絵心】シスターズの乃木平 乙女と天国 コハクだった。ふたりは同じ事務所の同期で、とっても仲良し。舞台俳優が多く所属する事務所で演技指導を受けているとあって、彼女達の技量は折り紙付きだ。
 今回ふたりが担当するのは、フリップへのイラスト描写だ。このアルパカランドで大人気のキャラクターは何かという問いに対し、それぞれが自信作を描き上げて披露し合う、というものである。
 挑戦者達にはパイプ椅子が与えられ、カメラと音声さんがそれぞれの位置に就く。
「私のイラストは……出来栄えは完璧、だと思ってます。コハちゃん、自信の程は?」
「ふふっ……乙女ちゃんと同じ答えだわ」
 ところがその時、何やら騒がしい一団が場に飛び込んできた。見ると、新人俳優でここ最近は何故かバラエティでの出演が多い城戸という若者だった。以前演じたギド・フェルミという役柄が高く評価されたことが、まだ記憶に新しい。
 その城戸がどういう訳か、大量のアヒルの雛に追い掛け回されていた。
「たたたたた助けてッ!」
 逃げ惑う城戸。しかし乙女とコハクは完璧にシカトを決め込んで、イラスト披露の段に進んだ。
「私のイラストは、こちらです」
 乙女が描き上げたのは小さなアルパカの赤ちゃんで、その名もティマオ。とても上手だ。ここの社長が見たら感動の余りに、むせび泣いてしまうのではないかという程の出来栄えだった。
 続いて、コハク。
「わぁ同じだね! 私もティマオちゃんだよ!」
 そういってコハクがフリップを開示すると、その場の空気が完全に凍り付いた。
 何だアレは。果たして、イラストと呼んで良いのだろうか。それは何かの呪いの絵図か、或いは地獄の亡者を写実的に模写したものか。
 この時、事故が起きた。城戸がコハクの恐怖絵図を至近距離から見てしまったのである。城戸は白目を剥き、泡を噴いて昏倒した。のみならず、彼を追い回していたアヒルの雛の群れもその場で痙攣し、一斉に倒れ込んでしまったのだ。
 スタジオでは葵、麻樹、雪緒が揃ってワイプの奥で動揺し、城戸の凄惨な気絶顔をテレビには絶対映すなと悲鳴に近しい声を上げていた。
「コハちゃん……これは、何? 遊星からのXさん?」
 愕然たる表情で凝り固まる乙女。対するコハクも衝撃に打ちのめされていた。
「ひ、酷いよ乙女ちゃん。私達、以心伝心(マブタチ)じゃなかったの……?」
 コハク、そのまま涙の逃亡。だが本当に泣きたいのは、スタジオの面々や挑戦者達であろう。ここまで、本当に笑いが取れたという実績がほぼ皆無だ。わろたらあかんの番組名、こうなってしまっては最早『看板に偽りあり』を認めねばならないだろうか。


 いや、まだだ。まだ諦めるには早過ぎる。わろたらあかん、ここからが起死回生のチャンスだ。
 どこかの世紀末救世主もいっていた。微笑み忘れたツラなど見たくはない筈だ。
 挑戦者達が次に向かったのは、ヒーローショーのステージだ。
 そこに、先程バス車内で遭遇したジュエルレンジャーの面々が待ち構えている筈なのだが、そのステージには【魔法少女ヤコブ☆シスターズ】のミモザとベラドンナの姉妹が上がっていた。
 この姉妹は一応アルパカランドの一般客なのだが、この日はヒーローショーに一般客ゲストとして出演する権利を得ており、わざわざ自作の魔法少女コスプレまで用意していた。
 司会進行役は、女子高生アイドルグループ所属のアルト=ミルドレッド=バ・ロッサ。勿論、芸名だ。ちょっと前までは清楚を売りにしていた筈だが、何故か体を張った一発屋芸人系アイドルへと転落したという過去がある。デビュー曲『生き別れた妹の手が落ちてた』のCD売り上げは決して悪くはなかったし、時折ドラマにも出演したりしているのだが、もう一皮、剥け切れていない。
「おっきいお友達の皆ぁ! ジュエルレンジャーの登場だよぉ!」
 のっけから、お客を大きいお友達のみと限定している辺り、アルトがいまいち売れない理由を示唆している様にも思える。
 それは兎も角、ステージの袖からは戦隊モノとは明らかに異なるヒーロー然とした姿のシルフィア・カレードが飛び出してきた。どう見ても出るべきステージを間違えている様にしか思えない。
 というのも、シルフィアが出演しているのはベルトの力でヒーローに変身する、仮面バイカーなのだ。シルフィアの役どころは主役バイカーと戦いつつ、何だかんだ共闘するという二号バイカー。
 そりゃ戦隊モノとは相性が悪い訳だ。
 ともあれ、シルフィア演じる二号バイカーは、
「さぁ、ここからはショータイムよ……!」
 などと好き勝手いい放ち、変身ポーズを取る。噴射されるスモークの中でスーツアクターと入れ替わり、ステージの裏側へと走り去っていった。
 ミモザとベラドンナは悪に洗脳された魔法少女といった役で、まず二号バイカーと派手なアクションを展開し始めた。
「さぁ喰らいなさいッ! ダークウィッチスプラッシュッ!」
 ベラドンナが、派手な技名の割にはごく普通の裏拳を放った。ところがこれがミモザの顔面に誤爆、といって良いのかどうか分からない程の完璧なクリーンヒットで命中した。
 客席からは失笑が漏れた。わろたらあかん、こんな形でまさかの面目躍如。
 ところがこの瞬間、ミモザがキレた。
「何しやがんじゃテメェッ!」
 ミモザは先程までの妙にかまととぶった大根芝居が一転し、何故か頭の上に張り付いている天使の輪っかがドップラー現象を起こしてしまいそうな程の勢いでベラドンナに猛然と襲い掛かる。もう台本も何も、あったもんじゃない。
 ここでアルトが体を張る芸人根性を見せて止めにかかったが、逆に吹っ飛ばされて客席のシスルを直撃してしまった。
「はぁ!? 何しやがんだこの糞トンチキがぁッ! 責任者出てこいやぁッ!」
 シスル、セクシータレント枠からいきなりヨゴレ系へと華麗なる転身。さっきまでは、やだぁ濡れちゃった、などと媚びを売っていたのがまるで信じられない程の変貌ぶりであった。


 その後も、挑戦者達と刺客達は懸命に、わろたらあかんを盛り上げようと頑張った。
 ジュエルレンジャーは囚われた美少女を救う為に戦うという設定でステージ上で奮闘するも、その囚われた美少女というのが肉襦袢を着込んだクロハだったから、まぁ一応失笑という形ではあったものの笑いは取れた。
「白は何色にだって染められるの……そう、例えどんなに無個性なモブ怪人だって!」
 アンネエルカのこの台詞が、必死に頑張るクロハの努力をいい表しているように思われ、スタッフ達の涙を誘った。
 その一方でNは、バットぐるぐるからの二人羽織熱々おでんで奮闘し、明日見は事前説明無しのジェットコースター+熱々おでんに挑んだ。尚、熱々おでんが連発したのは、時間を節約しながら効率良く笑いを取ろうと狙ったメアリの提案だったとか。
 急遽、熱々おでんを調達したナタク(いつの間にかパヴェル・インフェルノから復活)の手腕も称賛されて然るべきであろう。
 彼らの努力で何とか、わろたらあかんは最低限の質を確保することが出来た。
 ここから先は、後半組に全てを託すとしよう。


【執筆:革酎】


●CM

「今年も白いお皿の季節になりました。シールを集めて必ず貰える! マザキヤ夏のパンまつりっ♪」


●CMは明けたのに

「はいっ皆さんご一緒に! ご唱和下さい、マザキヤ夏のパンまつりっ♪」
 マザキヤ仮面は遊園地の一角、イベント会場に専用の大型トレーラーで乗り付ける。
 トレーラーはその場で変形し、マザキヤアルパカランド支店の店舗が出来上がった!
 備え付けの厨房からは、美味しそうな焼きたてパンが次から次へと出て来るぞ!

 しかし!
 そこにライバルが現れた!

 何十人もの邪教徒それっぽエキストラが作る輪の中に、巨大な丸い影が落ちる!
 見上げればそこにはクレーンで吊り下げられたホールケーキ!
 邪教徒達は両腕を振り上げ、振り下ろし、不気味な呪文を唱える!
オーライオーライオーライはいそこー、下ろしてー、いいよいいよ、そのままそのまま……」
はい着地成功ただの誘導だった
 邪教徒達の中から歩み出たるは、瞳に狂気を宿す彼等の長――レイヤ・ダライ=カホール!
「解りますか、ケーキは至上にして至高……」
 ホイップクリームの甘い香りが、焼きたてパンの香りを圧倒する!
「つまり生命とは、ケーキとは。そして宇宙とは――ケーキはお菓子である、しかしケーキでもある。すなわち世界」
 平等に切り分け平等に頂くことはケーキの共有を意味し、約束されたケーキを意味する。
「ケーキはパンよりも強し。パンがなければケーキを食べればいいのです」
 ケーキを切り分け、皆に配り始める邪教徒達!
 そこに敢然と異議を唱えるマザキヤ仮面!
「待て! パンとケーキの共存は可能だ!」
 だがレイヤは認めない。
「ケーキを解らぬものは自らがケーキとなるが良い」
 天から降り注ぐホイップクリーム!
「いづれケーキは地に満ちるでしょう」
 しかしマザキヤ仮面は降り注ぐクリームを2つに切ったブリオッシュで受け止める!
 これこそがパンとケーキの夢の共演、その名も――マリトッツォ!!
 だがそれもクリームに覆い尽くされ、出来上がったのは自由の女神の如きマザキヤ仮面のクリーム像ケーキ?
 広がるミーム汚染、ゲシュタルト崩壊するケーキの概念。
 こうして世界は第一次パンケーキ大戦クリームをぶつけ合うクリーム合戦に突入するのだった。



●再現ドラマ

■解説
 これはお茶の間で人気の学園ドラマ「東京アニエ学園」の中でも特に人気の高かったエピソード、宿泊研修編を再現した再現するとは言ってないぶっつけ本番の生ドラマだ!

■あらすじ
 二泊三日の研修旅行にやって来たアニ学メンツ!
 でも遊園地で研修って何するの?
 しらんがな! 勝手に遊べ! うぇーーーい!

■キャスト
【3年生】
・アーシェ:オリーとは双子の、遊び人でモテ男。ソフィアに秘めた片思い中……倉井アーシェルアーシェル・G・クライン
・オリー:アーシェとは双子のクールガイ、だが実は高所恐怖症……オリヴァーオリヴァー・ウッド
・ツバキ:合唱部の愉快犯、大抵メイとつるんで騒ぎを起こす……来海柘榴鴨井 椿(くるみざくろ)/歌唱力に定評のあるミュージカル女優。郡上清司の従妹
・リオ:めっちゃ堅物でツッコミ体質の生徒会副会長……明本吏桜明坂 桜侍/明本兄妹の兄でモデル出身
【2年生】
・アルリカ:ミステリアスに見せかけたエキセントリックな不思議ちゃん。ルイの姉……七海リカアルリカ/舞台経験のある新人女優
・ソフィア:コイバナが大好物の、ルカの親友でミミのクラスメイト。双子とは幼馴染……ソフィアソフィア・ウッド
・ミミ:上品な金持ちのお嬢様、恋愛音痴&世間知らずの無自覚トンチキマスター……明本魅美明坂 みゅみゅあん/明本兄妹の妹で元子役
・メイ:吹奏楽部所属、ツバキの悪戯仲間……姚芽衣匂坂 沙羅(ヤオ・ヤーイー/よう・めい)/中国人とのハーフの二胡奏者。双子の兄はピアニスト
・ルカ:大人しい眼鏡っ子でソフィアの親友、オリーに片思い中……ルカ彩木・琉花/ティーン雑誌の人気モデル
【1年生】
・ミオ:週刊誌ばりのスクープが売りの、ゲスい記事ばかり出す新聞部に所属する期待の星……品川未織品川 未織/絶賛売出し中の子役
・メル:陸上部所属、競技用義足で爆走する短距離選手……ドミニック・メルルロビン・カルカス/先天性四肢欠損の女子義足モデル
・ルイ:アルリカの弟で、初めての研修旅行に舞い上がる元気っ子……睦月瑠威果月・ルイ/子役上がりの俳優
【教員】
・アル先生:見た目が幼く童顔で、よく生徒と間違われたり生徒に揶揄われたりする……亜流アルフィー・リッパー/俳優
・イッチ先生:この人どうやって教員免許とったの、っていうか本当に教師? というレベルでちゃらんぽらんな教師……ICHI明坂 壱之丞/マルチタレント
・レン先生:真面目な顔して素でボケる、真面目な生物教師……郡上清司鴨井 蓮(ぐんじょうせいじ)/ドラマ「東京インソムニア」でデビューしたばかりの新人俳優、本業は樹木医志望の庭師。来海柘榴の従兄


■撮影開始

 それはキラキラ眩しい青春のワンシーン。
 解散の合図と共に、生徒達は一斉に駆け出して行く。
「アーくんも一緒に回ろう!」
「……っ!!」
 ソフィアにぎゅっと握られた手を、アーシェは思わず全力で払い除けた。
「ガキみてぇな事してんじゃねぇよ」
 違う、そんな事が言いたいんじゃない、手だってずっと握っていたいのに。
 本命にだけは弱いのは遊び人キャラの宿命か、それとも呪いか。
「そっか……ごめんね」
 微笑んだまま向けた背中に手を伸ばしても、もう遅い。

「えへへ、ふられちゃった♪」
 ソフィアはルカとミミのもとに駆け寄り、二人の手を取る。
「そんな事より、宿泊研修はラブのために負けられない戦いだよ! ルカちゃん、ミミちゃん! わかる?」
「負けられない戦い……戦争……ですか?」
 ミミは考えた、乏しい生活経験と一般常識から最適解をひねり出した。
 戦争、それは生き残りを賭けたゲーム……つまり。
「サバイバルゲームで勝利する事で相手の優位に立ち、こちらの要求を承諾させる……という事ですね」
 違います。
「違うけど楽しそうだね」
 ルカが答えた。
「あたし、今日こそ先輩に告白する……!」
「告白なら教会ですね」
「違うわミミちゃん、教会は告解、告白は体育館裏よ」
「決めた、景気付けにサバゲやろう!」
 噛み合っている様で噛み合っていない、でも何となく話は通じている!

「「レン先生ー!」」
 生徒達を見守る為、敷地のど真ん中で仁王立ちしている彼に、ツバキとメイの悪戯コンビが声をかける。
「先生知ってる? この再現ドラマには独自の罰ゲームがあるの!」
「笑ったら顔に落書きされるんだよ!」
「へぇ……そういうルールがあるんですねぇ」
 素の性格がおっとり穏やかな彼は、声を上げて笑う事も滅多にない。
「だから笑った人に罰を下す方になっちゃいなよ!」
 絵の具と筆も用意したよ!

「私、遊園地って初めてかも! ジェットコースターとか乗れるかなぁ?」
 メルはわくわくしながら位置について――
「目標発見!」
 よーい――
「ドォン!!」
 メルは走る! コースターを目指してそのまま入口を通り過ぎ、レールに乗って――
 お客様! 困りますお客様! それは自分で走るものではありません!
「だよね! 私も変だと思っ……なんか追っかけて来るぅぅぅ!?」
 客を乗せたライドがメルの背後に迫る!
 一番前に乗っているアルリカの表情筋は本日も不動!
 バンザイの格好で、しかし声も上げずに無表情なまま迫り来るその姿はなんか怖い!
 その隣で弟のルイが必死に叫ぶ!
「どけぇぇぇぶつかるぅぅぅ!」
「無理ぃぃぃ!」
 迫るライド、あわやスプラッタかと思った瞬間!
「あ、私跳べたんだっけ」
 跳躍から最後尾の開いた座席にすぽーん!
「乗れた!」
 けど隣になんかいる!
「イッチ先生!?」
 真顔でピースしてる!?

 コースターを降りたアルリカとルイは、更なる絶叫体験を求めてマシンからマシンへと渡り歩く。
「って、なんで俺が姉ちゃんのお供しなきゃなんないんだよ!?」
「なんでって……あんたぼっちだから」
「ぼっちじゃねーし! 友達くらいいるし!」
 アルリカがそんな弟の顔を無表情に見つめること約一分。
 遂にルイはその圧に耐えきれなくなった。
「……そうだよぼっちだよ! だから可哀想な弟の為に、今度は姉ちゃんが付き合ってくれよな!」
 さあ行こうか、魂も凍ると噂の――お崖屋敷へ!
「え、ちょ、ま、お化けとかいやほんと勘弁してほsビギャアアア……」
 なお無表情のまま叫び倒して逃げ回るその姿に、お化け役の方が恐れをなして逃げたって本当ですか?

「本当よ」
 何故かヨレヨレになったミオが、これまた何故かお化け屋敷の裏口から転がり出た。
「姉弟でデートスポットお化け屋敷にシケ込むとか、危ないスキャンダルの匂いしかしないじゃない」
 だからこっそり後をつけて激写してやろうと思ったら、逃げ惑うお化けの群れに巻き込まれてこの有様です。
 あ、今画面に4分割で監視カメラの映像出てますよね、そこで百面相してるのが誰かなんて、まさか訊いたりしませんよね?
「って言うか、この後ろに映り込んでるのイッチ先生じゃない?」
 なんでお化けに混ざってんの?

 その時、引率のアル先生の雷が落ちた!
「お前ら何してる! これは研修だぞ、遊ぶな!」
「えー、でも先生ー!」
「ここ遊園地よ? 遊ぶなって言う方が無理って言うか、それ営業妨害じゃないかしら」
 ツッコミを入れたのは例の二人メイとツバキだ。
「誰だ研修先にこんな所を選んだのは……俺だ!」
「「先生かいっ!」」
 両側からダブルで裏拳が飛ぶ!
「それじゃ先生のお墨付きも出たって事で」
 背後から忍び寄ったアーシェがアル先生を羽交い締め!
「先生も遊ぼうぜー!」
 具体的にはバンジージャンプ!

「なんで俺がバンジーするんだ!」
「大丈夫、オリーも一緒だから」
「そこ安心出来る要素微塵もないだろ!?」
 って言うかオリー柱に掴まってぷるぷるしてるんだけど!
 高所恐怖症なのに、なんでここまで登っちゃったの!
「いや、だって、アーシェが良いとこ連れてってやるかろ目隠ししろって」
 素直か!
「まあ心配すんな、俺が手本を見せてやるよ」
 アーシェは腰の紐を確認し、颯爽とジャンプ!
「俺に続k……って紐付いてねーー!!」
 紐はただの飾り尻尾みたいなものだった!
 だが大丈夫だ、下にはトランポリンがある!
 ポーンと跳ね返って、池にドボーン!
「いや無理無理絶対無理だって! 俺は帰る!」
 くるりと踵を返すオリー、だが吹きっさらしの階段も充分に恐怖を煽る!
 そこにひょっこり顔を出す悪戯コンビ!
「オリー大変よ、可愛い後輩ちゃん達が他校の不良に絡まれて!」
「でもオリーがここから飛び降りたらチャラにしてやるって!」
「本当か!?」
 オリーは信じた。
 恐怖によるパニックで正常な判断力を失っていた。
「ならば俺はどんな恐怖でも越えてみせr……ってそんな話があるかーーー!」
 だが時すでにおすし。
 空中で足掻くオリーは、どさくさで襟首を掴んだアル先生を道連れに――
「だからなんで俺までーーー!?」
 どぼーん!

「よし、これで覚悟完了だよ」
 サバゲでスッキリしたルカは、清々しい笑顔を見せる。
「それじゃルカちゃんの成功を祈願して、壮行会女子会するよ!」
「水杯を交わすんですね」
「ミミちゃんそれダメなやつ!」
 三人がカフェに向かって歩きながらきゃいきゃいしていると、後ろからツバキ先輩がタックルを仕掛けて来た!
「ふっふっふ、楽しそうな話してるわね? 私にも教えてよ!」
「え、なになにオリーに告るの?」
 メイが何やら悪い顔で微笑んだ。
「それなら弱ってる今がチャンス! はいこれバスタオル!」
「勝負服に着替えるのもアリだよね!」
 向こうにコスプレ用の貸衣装があったと、目ざとく首を突っ込んで来たメルルが指をさす。
「これは……今度こそスクープのチャンス!」
 ミオがそれを追いかけ――

「先輩!」
水も滴るイイ男オリーの尊みが過ぎて直視出来ず、思いっきり俯きながらバスタオルを差し出すルカ。
「ありがとう、ルカ。今日は自分の事で手一杯で、お前達の事を気にかけてやれなかったが……楽しんでるか? 何か困った事はないか?」
 ああ、自分が大変な時にも後輩達を気遣ってくれる、そんな先輩が――
「……大好きです……!!」
 言った!
 しかし、その声は傍らで上がった盛大な水音に掻き消されてしまった!
「え? ルカ、今なんて……ぶぷっ!?」
 おまけに顔を上げたルカは、目が小さく見える眼鏡をかけていた!
「何だそれ、いや笑っちゃいけな……ぶふぉ!?」
 直後、盛大な水飛沫が二人を襲う!
 ざばぁ!
 誰だ空気読まずにバンジーした奴!?
「僕だよ!」
 イッチ先生だった!
 仕方ない、イッチ先生なら仕方な――
「仕方なくないわよ! カメラが!」
 水没したんですけど!
「まあいいけど、私のじゃないし新聞部の備品だし
 でもデータ消えたのマジ許すまじ。

「君達!!」
 そこに生徒会副会長、リオの怒気に満ちた声が響く!
「集合時間はとうに過ぎているのだが!?」
 はい全員正座!
「それに何だこの有様は……問題を起こさないように、自重しようとか少しは考えたりしないのか君達」
「やだなぁ副会長、これでも自重はしてるわよー?」
 けらけら笑うメイの言葉は確かにその通りかもしれない。
 だが問題はそこじゃない。
 何が問題なのか誰もわかっていない事が最大の問題なのだ!
「あと先生! 特にそこ!」
 生徒達に混じって正座してるけど、イッチ先生の反省はポーズだけだって知ってるよ!
「まあいい、では点呼を取る――」
「ちょっと待ったぁ!」
 突如、ルイの声が響く。
「俺まだ枕投げやってない! 枕投げ、それは明日の予定を決める為に行われる神聖なる儀式――って先輩達例のコンビが!」
 残念だが少年、遊園地に枕はない。
 ないのだ。

 あと真顔でワクワクしながら絵の具を手に待ち構えてるレン先生。
 そんな罰ゲームないから。
 てかここドラマ枠なんで、そういうの関係ないから。
「……そう……なんですねぇ……?」
 しょぼーん。



●突撃となりのアトラクション

「今時のファッションデザイナーはテレビにも顔出しするのだ」
 巴・左京はガーリーファッションブランドのデザイナー。
 テレビに出ると言うから、ドキュメンタリーの取材かと思わず心を躍らせた。
 だが実態はこれ園内アトラクションの突撃レビューだ。
「仕方ない、デザイナーと言えど所詮は雇われ者、上司の命令に逆らう事は出来んのだ」
 そんな彼の相棒に選ばれたのは、有名芸能一家に生まれた二世タレントの麗ノ浦えるエルゼリオ・レイノーラ
 親の七光りと陰口を叩かれても折れず腐らず、実力で周囲や家族に認められる為に努力を惜しまないその姿に、好感度赤丸急上昇中の逸材だ。
 今日は堀割学園芸能科の級友葛飾・北斗と、ライバルレイウェスト役の春田怜もどこかにいる筈だが、何故この組み合わせなのか。
(これはバラエティに不慣れなボクに対する試練に違いない)
 見知らぬ相手と組ませる事で更なる覚醒を促そうというのか――と、えるは受け取った。

「ふぅん、収録場所は遊園地か。ファンシーエリアのピンク感はなかなかにいいぞ」
 軽く挨拶を終え、二人は歩き出す。
「さて私がレビューするアトラクションは……何? 絶叫?」
 左京は足を止め、目を見張った。
「まさかあのぐるんぐるんしたアレでは」
「アレだね」
「因みに君、アレは得意かね」
 左京の問いに、えるは静かに首を振る。
「だけど与えられた仕事は何でも笑顔でこなす、それがプロだよ!」
 えるは左京の腕をとり、引きずる様にずんずん進む。
「いや確かにプロだがバラエティのプロでは! すみませんちょっと調子が、ちょ待っ、あ”あ”ー!!」
 ……ちーん。



●番宣

 高校の生徒会、それは時に最高権力だったり異能者集団だったり、一番の問題児だったりするものだ。
 そんなごく普通のどこにでもある生徒会に所属していた三人の女子生徒。
 彼女達の「その後」を描いたドラマ、それが――

『生徒会でしたがなにか?』

 馬鹿と天才は紙一重の元生徒会長!(演:天國・ミカド)
 主に生徒会長に対するツッコミ担当、氷の元副会長!(演:月城 京)
 唯一の常識人枠だった筈がどうしてこうなった書紀!(演:宇佐樹・彩愛)

 これは、社会人になったなれた女三人のかしましドラマである!

「……はいいんだけど何で制服ヘソ出しセーラー!? ドラマで着ないでしょ!? 可愛いのは好きだけど女子高生きつくない!?」
「あら、目立ったもの勝ちよ」
 思わず取り乱した彩愛(27)に、京(28)がしれっと答える。
 画面には「制服は私が用意しました」の吹き出しテロップが!
「ふ、頭脳派だな京!」
 ミカド(28)は恥じらいの欠片もない姿で仁王立ち!
「安心しろ! この私がいる限り制服だろうが真っ裸だろうが視聴者の目線は我らのものよ!」
 脱ぐ? 脱いじゃう?

 ――暫くお待ち下さい――

「よし常に冷静に――ってオイ!? 見ろよ彩愛!」
「ちょ、京さんそれ……っ!?」
「彩愛はどこに笑ってるの。ミカド、番宣の為にこらえなさい」
「いや、だって京さん肌色全身タイツ、しかもマッチョとか……っ」
「何コレくっだらねー!」
 腹を抱えて笑い転げる二人、だが京は冷静だった。
 番宣の為なら手段を選ばぬクールビューティ、まさかそのチョイスは自ら……!?
「次笑ったら画面占有率減よ」
 いや待って、それじゃ画面の殆どが肌色になっちゃう!
 お茶ののよゐこの性癖が歪んじゃう!
「それより笑ったら罰ゲームだったよね!?」
「くっ、ケツバットは私だけにしろ! 他の二人は解釈違い――いや、京は笑ってないな」
 寧ろあのマッチョな尻こそケツバットに相応しいのでは?
「よし、くすぐれー!」

 番宣とは何だったのか。
 だがその後、誰もウケを狙っていない所で笑う京のキャラが多くの視聴者のツボに嵌まり、ドラマの視聴率が急上昇したとか――



●巨大サバイバル迷路

 ここは二人一組でなければ抜けられない障害物迷路。
 笑わせトラップ満載、ついでにゾンビも追いかけて来るぞ!


 まず一組目は、お互い中学校からの幼馴染で同じ俳優事務所の同期というこの二人!
 バラエティはお任せ三反崎 勝生と、彼の傍には必ずこの人ありと言われる深栖 侑輝!
 度重なる週刊誌のスッパ抜きにも動じず「ただの幼馴染」としか言葉にしない彼等だが、ファンのリアクションは「はよ結婚しろ」一択!
 そんな二人は今日も一緒に体当たりで笑いを取りに行く!
「これそういう番組だったか?」
「私らが笑かされる方じゃんね!」
 そう言いながら二人は走る、時に肩車、時に二人左脚、そして突然の坂道!
 平らだった通路が斜めにせり上がって行く、しかし勝生の筋肉は裏切らない、毎日のトレーニングの成果を見よ!
 急斜面を根性で駆け上がり――ああ、しかしこんな所にサンオイル!
 つる、すてーーーん!
「勝生こっちこっち、抜け道あるよ」
 滑り落ちた先には手招きする侑輝の姿、その目尻に光る雫は相棒の無念を哀れむ涙か、それとも――
「お前さっき爆笑してたの見えたからな?」
 爆笑の涙だった!
 流石の平常運転でゾンビの追跡を振り切り、見事ゴール!
「いやー、今回の撮影もやばやばだったじゃんね! でもセーフ!」
「どこがだ!」
 完璧にアウトです。
 なお罰ゲームは後で纏めて!


 二組目はルルト・アーキスと白靴下の黒にゃんこタマさん!
 問題ない、相方がヒトでなければいけないという規定はない!
「行くよ、タマさん!」
「にゃ!」
 タマさんを肩に乗せ、ルルトは走る!
 アップダウンを越え行き止まりを引き返し、いささかトラップがユルい気もするが気のせいだ!
 タマさんが可愛いからサービスしてるとかそんな!
 ルルトは角を曲がる、しかしその先に!

 ふぁさぁ……

 これは「突然目の前でセクシーに塩を振る人」役のアルバス・ロウル!
 やたら高い位置から塩を振り始める!
 輝く黄金の髪! 溢れる白い歯! その手から放たれる塩の粒はまるで黄金の如く輝いている!
「……っ、くく……っ」
 口を押さえ懸命に堪えるルルト、しかし目が合ったアルバスは流し目で微笑み――

 ファサァ……

 追い塩だ!
 堪らず笑い出すルルト、ここでアウト!
「無理! 追い塩は無理! もー、いきなりずるいんだよwww」
 笑いが止まらない、そこに追っ手のゾンビが近付いて来る!
「逃げなきゃ!」
 ゾンビに捕まればくすぐりの刑だ!
「タマさん静かに……あっ!」
 タマさん、ルルトを見捨てて逃げ――いや、先導している!
「ちょ、早い、早い、はやいーっ!!」

「……逃げたか」
 それを見届けたアルバスは、スーツ&サングラス姿に着替えて追っ手に合流!
「短距離走は任せろ、あっという間に追い詰めて……え?」
 あ、言い忘れましたがそのゾンビは本物です着ぐるみだけどそういう設定です
 塩を撒きながら逃げるアルバス、その行く手には三組目の姿が!


「ご指名ありがとうございます。貴女の心に流れる一条の流れ星――」
「ご指名ありがとうございます。貴女を守る一等星――」
「ってナイト!?」
「って一条さん!?」
 相方として紹介された互いの顔を見て、一瞬で戦闘モードになったのは一条 流星と煌☆騎士、ホストクラブ『Twinkle Stars』の看板ホストだ。
「なんでお前がここに!?」
アンタバラエティ特番につき当たり強めでお送りしておりますこそなんで!?」
「俺は店の宣伝の為にちょっとテレビ出て来いって店長に」
「それ俺も言われた」
「何だと!?」
「当然だろ、俺がNo.1だし」
「そうか、わかったぞ店長! ここで決着を付けてこいって事だな!」
「多分絶対違うが、わかった受けて立つ! 真のNo.1ホストの実力、思い知れ!」
「吠えてろ! 今ここでお前をNo.1の座から引き摺り下ろす!」
 そしてNo.1ホストの座を賭けた頂上決戦がここに始まる!
 ホストの順位ってそんなんで決めるものじゃないと思うけど!
 互いに足を引っ張り妨害し、だがピンチには助け合い、また蹴落として――なんだ、ただの仲良しか。
「良くない!」
「良くねぇ!」
「真似するな!」
「そっちこそ真似すんな!」
「うっせぇバーカ! バーカバーカ!」
「アンタ小学生か!」
 あー、もしもし、よそ見してるとその先――

 べちぃーーーん!

 行き止まりなので……うん、遅かったね。
 仲良く壁にヒトガタを作った二人は、仲良くゾンビに捕まりました。
 めでたしめでたし。



●ステージ

「いやー、君いいねえ!」
 羽柴 真幸をステージ裏に呼び出したスタッフは、その肩を思い切り叩いた。
「そのキャラ、エキストラにしとくの勿体ないよ!」
 つい先程まで、真幸はゾンビとなって迷路で出演者を追いかけていた。
 だが目の前で何かが起きると出演者よりも先に笑い出すほどの笑い上戸、しかも一度スイッチが入ると笑いが止まらない。
 正直こうした仕事には不向き、なのにどうしてこうなった。
「いやいやいやだからってタレントも無理っす!! 笑いまくるから美味しいって言われても……!」
 問答無用で放り込まれたそこは――

「ようこそ信者ちゃんたち! ここでは僕とのゲームに挑んでもらいます☆」
あざと可愛い天使の少女バーチャルアイドルアンリ織辺・浅吏の公開生配信ステージ!
「勝ったらハッピー負けたらアカBAN! ルールは簡単、えっちに聞こえる言葉に照れたら負けね!」

 挑戦者はこの三名!

 ジャビーズ事務所の四人組アイドルユニットの一員、葛飾・北斗!
 現在売り出し中の彼等は事務所の方針により今やバラエティ番組の常連、他のメンバーも別コーナーに挑戦中だ!
 4人共バラエティに馴染みすぎて自他共に本業を忘れる程の活躍ぶりだが、実は初のコンサートを控えている!
 チケット絶賛発売中!
「歌は苦手だけどダンスは得意! それで今日は何を……え? 待って、それは事務所的に……あ、OKなんだ?」
 覚悟を決めた北斗はステージ中央に仁王立ち!
 さあ、これは彼の知られざる一面が見られるチャンスか!

 そしてインソムニアでは寡黙なSP役として知られるR・D!
 ドラマ内では全く笑顔を見せないコワモテだが、彼の素顔は如何に!?
「やあ、こんにちは! ロー・ディーさんだよ!」
 おっと、これはのっけからキャラが違う!
 だがその顔は相変わらずの仏頂面、色んな意味でギャップが激しいぞ!

 最後はエキストラからの大抜擢、その力量は未知数だが何かを持っている羽柴真幸!
「いや、だから俺は……ええい、もうどうにでもなれ!」
 って言うかこれ笑い上戸関係ある?

「パカ倫に挑む前から照れるよーな純情ボーイはウチインソムニアじゃあやってけないからね~」
 それじゃあいくよ~?

「……淫雨長雨の意///」

 おっと、これはどうした事か!
 言った本人が思いっきり照れた!
まさかのMCリタイアに爆笑する真幸もアウト笑い上戸関係あった
 だが何事もなかった様にステージは続く!
 真顔でエロくないのにエロく聞こえる単語を羅列するR・Dは流石の大人っぷり!
 対する北斗は納得の17歳、照れて慌てるその様子に新たなファンが増えるかも!
 そして優勝は余裕のR・D……ってこれ何の番組だっけ?



●ふれあい牧場

「わあ、すごい……もふもふがいっぱいだ……」
 動物好きとして売り出し中の新人俳優、ツァガーンはもふもふの波に呑まれていた。
 どこもかしこも見渡す限りのもっふもふ、しかもその全てがアルパカだった。
「さすが、アルパカランド……」
 アルパカ以外のもふもふは認めないという、運営の強すぎる意思を感じる。
 だが見境のない動物好きツァガーンにとっては全ての動物が等しく推しだった何の問題もなかった
「わ、かわい……あっあっ重い、力強い……」
 推しに推され……じゃない、押されてる!
「待って待って……!」
 アルパカの海に沈むツァガーン、しかし!

「ふぇっふぇっふぇぇぇ!」
 ズボォ!
 一頭のアルパカが雄叫びと共に彼を咥えて救い出す!
「あ、ありがとう、助かっ……ひぇっ!?」
 思わず変な声が出た。
 それもその筈、彼を助けたのは人面アルパカアルパカの着ぐるみに入ったインソムニア俳優、化良・応介だったのだ!
 本人の顔が剥き出しの上に、首がやたらと長いって言うかそれ胴だな?
 アルパカの前足が中の人の足で、後ろ半身はただのぬいぐるみ引きずってるだけだな?
「ふぇっ!」
「礼には及ばない、だそうです」
 首輪を引く少年アプリリで少年時代を演じた子役に促され、人面パカは颯爽と去って行く――が、直後。

「ふぇぇえええッ!!!」
 人面パカは無表情でヘドバンしつつ、首から突き出した両手に持ったケミカルライトを振りまくる!
 その目の前には――

 ヒトガタの九官鳥がいた。
「ヨウチャン、ダヨ、コンニチハ」
 それは九官鳥のコスプレをし、身も心も言葉遣いさえ九官鳥になりきった、タレントの泉河・羊だった。
 何故にその姿なのか、首から下げたボードにその答えが書かれている。
『ちゅうたと結婚するために九官鳥になりました』
 なお「ちゅうた」とは彼女の愛九官鳥の名前である。

「ごめんなさい。こいつ、あなたのファンなんです。サインが欲しいみたいで……え、違う?」
 通訳した少年の言葉に、人面パカはますます激しくヘドバンをキメる!
「惚れた?」
 まあ動きとか逐一可愛いけど、自分が可愛いこと知ってる動きだけど。
 しかし羊は翼をパタパタ羽ばたかせ、上を向いて叫んだ。
「ヨウチャン、チュウタノ、ヨメ!」
 そのままてててーっと走り出す。
「ヨウチャン、チュウタ、ラブラブチュッチュ」
 九官鳥とアルパカの種族を超えた愛は、こうして始まる前に終わりを告げたのだった。


 牧場の売店で、サマエラ=フォリウムは手にした「それ」をじっと見つめていた。
「ねー、これ……わたし確かに、アルパカアイスっていうの頼んだけどー……」
 牧場だからアルパカの乳とか使ってるのかなって思うよね。
「それか見た目がアルパカみたいとかー」
 でもこれは違う。思ってたのと違う。
「毛がすっごい混入してないー……?」
 混入って言うかもう、毛玉そのものじゃない?」
「食べられる……?  ええ、でも……えぇー……じゃあ食べるー……」
 もじゃもじゃの毛が舌に絡みついて……ぺっぺっ!
「でもー、この顔で笑いとれるなら本望……かなぁ……」
 いやでも完食は無理絶対無理。

 だがそこに、アルマ・ヴァレンタインが現れた!
「ここに食べられる毛玉があるって聞いたよ!」
 彼女は小さな体で何でも食べる、歩くブラックホール胃袋!
 しかも口に入るなら何でも美味しくいただけるゲテモノ食い!
「おぉー……すごいー……」
「えっへへー、このごろ普通のごはんしか食べてないから、なんか物足りなくって!」
 そして毛玉アイスは消えた。
 売店の在庫も消えた。
「うん、ちょっと口に残るけど甘くて美味しいね!」
 大丈夫、何をどれだけ食べてもお腹壊したことないから!
 毛玉くらい余裕で消化するよ! ※この毛玉は難消化性の食物繊維を特殊加工して食感を似せたものですので人体に影響はありません
 そしてアルマは次なるゲテモノを求めて旅立った。
 彼女は知らない、後に自身が罰ゲームから皆を救った英雄として称えられる自分が食べ尽くしたゲテモノ達が罰ゲームのアイテムだった事を。

 かくして、うっかり笑っちゃった人も罰ゲームを免れ、無事に帰りのバスに……乗れたけど、行先これで合ってる?
 てか空港で降ろされたんだけど?
「こんな事もあろうかと、代わりの罰ゲームを用意しておきました」
 では行ってらっしゃい、楽しい空の旅高度三千メートルからのスカイダイビングを!


【執筆:STANZA】